きみのァウ(9)





あの時はごめんね、と言いたかった台詞をカカシが先に言ってしまった。
思わずタイミングを逃して、ははい、と小さく頷くだけで、その後カカシは何も言ったり聞いたりしてこなかった。二人で飲もうよと言われてついていったのは木の葉の里の忍御用達の酒酒屋。適当にテーブル席を選んで座り、食事を頼む。


「どうして家出してきたんじゃないって思うんですか?」
「うーん、まぁ、家出の線が一番高いって思って聞いてみたんだけどね。でも帰りたがらないし、親も探しにこないし。天涯孤独ってわけでもないでしょ。その年で結構教養もありそうだしね。それで、こっちからじゃあ親を探してみますかって思ったら、リストに載ってなかった」


木の葉の、と付け足して先程頼んできた食事が届く。至ってフツーの定食だ。お酒は無理なので気を使ってくれたらしい。勿論それも頼まなかった。


「・・・・・直球に聞くけど、なんかのスパイ?」
「違いますけど」
「まぁ、誰でも最初はそう言うけどね」


そりゃそうだ、と心の中で納得する。―――できれば何も言いたくなかった。帰る方法も一応探してみたものの、手っ取り早い忍術も難しいし、魔法なんてそもそも無い。かといって協力を求めるにも、自分が知ってるのはかなり機密度の高い問題だ。もしその所為で死者が出たり、その上戦争にでもなったら嫌だった。それに、話のシナリオを変えてもいいのかと随分迷う。


「その線は薄いと思ってるよ。なんてったってチャクラを感じないし」
「そうなんですか?」
「そうなんです。てか、チャクラは知ってるんだ」
「う・・・・・」


うわぁ、このまま尋問がてら喋らされたら相当だろうなぁ、とは心の中で危機感。隣で尚も何事も無かったように微笑んでるカカシが怖い。傷はなんとなく塞がったような気がしないでもないがけっこうざっくりだ。


「じゃー、忍のことも最初っから知ってたんだね。嘘ついてたんだ?」
「・・・・・そんなに深くは知りません」
「知ってるには知ってると?」
「まぁ・・・・」


多少は、と付け足す。どのくらいが深いあたりなのは知らないが。


「ね、どこから来たの?」
「・・・・・・・」
「正直に言ってくれれば、無傷で返すことも考えてあげるよ」


こわ・・・・・、戦闘態勢ですか、しかも「考えてあげるよ」。考えるだけってな場合も含め。どうしよう。どうすればいいんだろう。こんな状況で忍に脅されかけたらどうすればいいかの補修なんてなかった。


「信じてください」
「・・・・・・え?」
「全面的に、信じてください、としかそれ以上今は言えません。お願いです。信じてください。スパイなんてしてません。だって、できるんならもうやってるはずでしょう?それに、カカシさんの寝首をかくことだって十分に出来たはず。・・・・・・お願い、します」
「それで俺が信じるとでも?」
「別に、カカシさんは強いから、後で取り返しがつくでしょう?・・・・時が来たら全部話します。もちろん、信じるか信じないかはカカシさんの自由ですけど」


睨みつけるようにカカシの瞳を見つめる。あがらない喋り方の第一歩は相手の目を見るということだった気がする。どういう手に出るんだろう。知らない世界のカカシだ。


「・・・・・・・じゃあ、取引でもしよう?」
「え?」
「俺はを信じる。その代わり、は戻ってきて」
「・・・・・・どこにですか?」
「俺のとこ」


にっこりとカカシの目が湾曲を描く。この笑顔に騙される人って何人いるのかな。きっと私もそのうちの1人なんだろうな・・・。


「それって私に体良くありません?」
「うん、すごーくいい。で、もうひとつ」
「はい」
「俺と付き合ってよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」







一方的に丸め込んで終わったのはそれから直ぐの事だった。俺はに荷物をまとめて明日にでも帰っておいでと促すと彼女も了承した。―――正直、わからないことだらけだった。分身の術を使って、他の席から読心術を使ったものの、には全く効果が無い。かけられているということも気づいていないようだったので、きっと無自覚なんだろう。信じてください、の言葉にもどこまで信用できるかわからなかった。それでもも結構普通の女の子だと思ってたし、数日様子を見ても何も当たり障り無かった。それなら一番側に置いておくのが手っ取り早い。この事実は俺以外誰も知らないので紅にも迷惑かけるわけにもいかない。それにきっとも俺のことを好きだろうから、少しぐらい惚れさせれば裏切った時に揺さぶれるかもしれない。交渉はその程度だ。が無害のまま里を去ればそれでも良かったし、思い過ごしなら少しは楽に思える。結局ひとりで自己完結して終わったが、里に報告するのも足早な気がする。もしかしたら上忍も気づいてる奴がいてもおかしくない。
―――――それに、自分も結構の事は嫌いではなかった。





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20080322
(紅さんを見分けられたのは愛の力?)