きみのヴァウ(7) 「そのでれっとした表情をどうにかしたら?」 開口一番紅からは怒声が来るかと思っていたが、案外完結だった。それ故に、何故か威圧感があったりなかったり。と別れた後ひとりで飲み直しているカカシの向かい側に紅は腰を下ろした。遠慮なくカカシのツケで酒を頼むところを見ると、遠慮と言う二文字は今の紅にはない。 「ちゃんは?」 「今さっき眠ったところよ。1時間ぐらいずっと泣いていてやっと眠ってくれた」 「よかった。しばらく紅の家においてくれると助かるんだけど?」 「誰がその元凶のアンタの家に帰しますか」 酒の肴が運ばれてきたので、酒を飲む前に紅はそれをつつく。今日はあんまりお金もって無いんだけどなぁ、とこれはカカシの事情。 「一体何したの?」 「・・・・俺を真っ先に疑うわけね」 「アンタ以外あそこまで泣かせる奴心当たりないもの」 酷い言われようだ。それでも確かに事実なので甘んじて受ける。正しくは、受け流す。 「なんていうか、俺が悪いっていうか、悪くないっていうか。燃えてるところに油をぶちまけた、みたいーな?」 「もっと現実的にいいなさいよ」 「・・・・彼女といる所をちゃんに見られただけ」 ああそうなの、と上っ面は適当だが、同姓として一番気を使っていたのが紅だ。カカシにも何度が様子を見ていて欲しいと言われたこともあったし、実際に拾ったのも紅だった。 「そこまで泣くってことは、よほどアンタのこと好きなのね、ちゃん」 「うーん・・・・それが良くわからないんだよなぁ」 「何でよ?一ヶ月近く一緒にいたんでしょ?」 「でも実際に会ったのって数える程度だよ?ほとんど任務漬けにしておいたから」 「何で任務漬けにする必要があったの?」 「・・・・・・あのねぇ、そりゃ年下だけど、年頃の女が家にいて風呂上りだったらどう思う?寝てるところとか、誘ってるよーにしか見えない」 ・・・未遂で終わってよかったわね、と容赦ないツッコミを紅は入れて、運ばれた酒に手を付け始めた。カカシも色々とローテーションして、しかし何時もより量は多めだ。 「だからその間に好きとか・・・・・もしかして惚れっぽい性格?」 「それはないと思うけど。慎重な性格だと思うし」 「ま、そんなもんで片付ければそんなもんなんだろうけど」 「・・・・・・で、その衝撃な場面を見てそのあとどうなったのよ」 「逃げたから追って・・・・嫌いなの?って聞いたらさよならって言われて今に至る」 色々省略済み。それでも納得したのかふうんと言って紅はまた酒をあける。財布の悲鳴は紅には届かないらしい。 「・・・・意外と何も言わないんだね?」 「別に当事者同士で決めることでしょ。・・・・多少なりとも口はつっこむけど」 「ああ・・・そう」 「でも、度が過ぎたら怒るわよ。付き合うにしても振るにしても」 そこら辺は曖昧に笑い返すカカシ。そのあと少し世間話をして紅は帰る。伝票をみれば自分の倍は飲んでいる。奇跡的に足りる額でよかった。それから少し飲んで店を出る。空は漆黒に覆われているがそのうちまた朝日が昇るだろう。 「・・・・・嫉妬にしか、聞こえなかったんだよね」 ちゃんのあの台詞、とカカシは胸の中で呟いた。 朝起きると、案の定目が腫れていた。 「うー」 唸っても始まらない。―――家の中のものは適当に使ってと紅に言われたのでありがたく洗面器をお借りする。しかし、一夜明けても、全然傷は癒えていなかった。むしろ深く突き刺さり続けるばかりで。 「・・・・・・はぁ」 小さいため息を付いた後、どうしようかと紅のアパート内をうろうろしていると、玄関にダンボールがあり、自分の名前が書いてあった。明けてみると、全部ではないがカカシの家においておいた自分の生活用品一通りが置いてあった。その中の普段着を来るが、働く気にもなれないのでしばらくお休みを頂いた。 『ちゃんは俺にここにいて欲しいと思ってるくせに』 否定できなかった自分が悔しい。本の世界のカカシに恋なんてバカらしいと思うけど、手の届く所に来れたのは何故か嬉しい。何処から来たとか、なんで記憶がないとか一切触れないのもカカシの優しさなのだろうか。それとももう調べは付いているのだろうか。 「・・・・・好きです」 その一言を言えばすっきりするだろうに、自分の勇気はまだ湧いてこない。確信となってしまった恋。ため息とともに、その言葉は呟きとなって空に消えた。 -------→Next 20080312 (もう少しこの二人は素直になれないんですかね) |