きみのァウ(6)





買い物の帰りなのに、目的の買い物袋を落としたままにして来てしまった。カカシからそれほど遠くないが、その場から逃げ出したは、とぼとぼと速度を落として歩いていた。一応、帰る目的はカカシの家だが、帰ったところでカカシも帰ってきて気まずくなるのがオチだ。


「・・・・・どうしよう」


本当にどうしよう、な状況だった。紅やアンコに頼ってもいいといわれたが家がわからないし、道端で都合よく会うなんてそんな展開はたから期待していない。
―――そこでクイッと右腕が引っ張られる。


「みつけた」


振り向くと、カカシが買い物袋を持ってそこにいた。ほど息を切らしていないと言うか、むしろカカシが平常なのは日ごろから鍛えているお陰だろう。


ちゃん、人をまくの上手いんだね。少し探したーよ?」
「・・・・カカシ・・・さん・・・・」


ここにカカシが居るということは、まさかあの彼女をほったらかして来たのではないか。もしかしたらその所為で浮気だのなんだのでカカシが振られる羽目になると思うと、はカカシの胸を押していた。


「・・・・・・っ・・・・彼女さんのところに、行って上げて、下さい・・・・」


途切れ途切れにしか上手く喋れない。涙が半分目から零れそうになっているので、下を向いて顔を見せないようにするのが精一杯だ。


「どうして?」
「彼女さんのこと、置いてきたんでしょう。・・・・私、カカシさんとあの人が別れるの嫌です」
「・・・嘘つき。ちゃんは俺にここにいて欲しいと思ってるくせに。じゃあ何で走り出したの?―――泣きそうになりながら」


その姿さえしっかりキャッチされていたのかと思うと、本当に泣けてくる。押してもビクともしないのでそこは諦めて、は正面真っ向から啖呵、もしくは堰を自分から切った。


「私は何も見なかった!知らなかった!・・・・それでいいじゃないですか?別に私が何処で泣こうと迷子になろうとカカシさんの知ったことじゃないでしょう?むしろ清々するんじゃないですか?家に勝手に居つく家出人がいて!!」
ちゃんは自分の事そんな風に思ってたの?」
「悪いですか!?」


カカシさんに切られるのが怖い。なら、自分から切ってしまえと嘆く自分がどこかにいる。こんなこと言いたいんじゃない。―――の心の声は、届かない。


「ほっといてくださいよ!貴方と私は生きる次元が違うんですっ!そんな年下をからかって何処が面白いんですか!?早くあの人の家とかどこでも行けばいいでしょう!!私を巻き込まないで!―――正直言って、迷惑です!」


最後の方は、ほとんど言葉にならなかった。もう、涙が限界で頬に伝っている。カカシは無言のまま、ただ睨みつけてくるを見下ろす。何か言って。嫌いでもいいから。は切羽詰っていた。―――もう、どうでもいい。


「・・・・ごめーんね?そんなに俺がちゃんを傷つけてたなんて知らなかった。俺が鬱陶しい?嫌い?いなくなって欲しーい?―――ちゃんの良いようにしていいよ」


カカシの言葉が痛かった。あれだけ好き勝手なこと言っておいて、動揺すらしない。ああ――この人は自分のことをなんとも思っていないんだな。は涙を拭う。


「・・・・・・・・・さよなら」


それだけの言葉を精一杯言って、はまた駆け出す。今度は追ってくる足音も無い。
―――小さかった恋は、あっという間に千切れた。







過ごした時間は短かった。
でももうずっと一緒にいたような気がする。1ヶ月も経たなくて終わった、憧れと尊敬の混じった恋。カカシを最初から知っていた所為もあるが、接点がなくても好きになれた。生活観が無い家だけど、どこかカカシの行動が現れる家。全部お金も何もやってくれて、いったい私は何が不満なんだろう、と後悔するけどもう遅い。現実は苦い。もっと恋なんて甘いものだと思ってた。それが中途半端で終わるなんて、一体何処の誰が教えてくれたんだろう。
気が付くと、カカシの家に駆け込んで荷物をまとめて家を出ていた。カカシには会わなかった。それとも意識して会わないようにしてくれていたのだろうか。
日が落ちそうになった頃、今度はドラマみたいに都合よく救いの手が現れてくれた。


「・・・・・あれ?ちゃん?」


自分でも意識していないうちに、紅の腕の中で声を殺しながら泣いていた。






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20080309
(どんどん苦くなってくる。甘いの重視に早く戻したい・・・)