きみのァウ(4)





ふと気が付くと、カカシのベッドの上で寝ていた。何時もはたたんで置いてある毛布とソファで寝るのが普通なのに、今日は何だか暖かい。目を開けると空は真っ暗で、カーテンの隙間からは月明かりしか覗かない。


「あー・・・・」


帰ってきてからの記憶がほとんど無く、風呂にさえ入っていないことに気づく。時計を見ると3時。そういえば人間は大体三時間ごとにレム睡眠とノンレム睡眠を一周するから、3時間後ことに目覚める確率が高くなるとかならないとか。


「・・・・・とりあえず、風呂」


シャワーでもどちらでもいいので浴びた方がいいだろう、朝になってぺとぺとで汗臭いのは流石に嫌だ。ふらふらと脳が半開の状態で起き上がり、着替えを持って風呂場に行った。


「あてっ」


気が付くと、何か大きいもの―――否、カカシにぶつかっていた。見上げると歯磨きをしながらこちらを見下ろすカカシの顔があった。そしておはよう、と一言。


「こんな夜中に目ぇ覚ますなんて珍しいね?」
「・・・・・・とりあえず風呂にははいろっかなって」
「そ。お湯抜いてあるから、シャワーになるけど・・・・お風呂入りたい?」
「いえ、シャワーでいいです」


だって一応居候の身分ですし、という遠慮は心の中に留めておく。


「カカシさんこそ・・・・・こんな時間に?」
「ちょっとソファで寝てたんだけど、そろそろ任務の準備しないとアレだからね」
「・・・・え、あ、あの、ベッド使っちゃって・・・・・」
「あー、いいよいいよ。俺が運んだんだし」


体重重いのがもろバレ?


「それにしてもこんな朝早くから任務なんて大変ですね」
「もう慣れたかなー、いろいろな境遇のお陰で」
「そうですか」
「うん、じゃあごゆっくりどうぞ」


カカシはそのまま通り過ぎてリビングの方でしゃこしゃこやっているようだった。シャワーを浴びて大まかに体を洗い、寝巻きに着替えてリビングに戻るともうカカシの姿は無かった。代わりに、机の上に「3日ぐらいで戻る」と走り書きのメモが置いてあった。

素っ気無い。
と言うのは正直な感想。


「・・・・・・まぁ、いっか・・・・」


まだ朝まで幾分あるので、もう一度眠る事にした。





カカシがいない間に、働き口は近くの図書館に決まった。本貸し借りの手続き、新着図書や古本の整理や掃除が主な仕事だった。最低でも一月自分を養えるぐらいもらえるようなのでほっと一安心したが、まだお金がたまってないのでカカシの家を借りなければ1人立ちは出来ない。


「やっほー、ちゃん。働くとこ見つかったんだって?」
「あれ・・・・・紅さん。どうしてこんな所に?」
「カカシに頼まれて様子を見に来たの、あいつ人使い荒いわよね」


愚痴をこぼしつつ紅は手を振ってやって来た。普通の任務服に、手には買い物でもしてきたのかビニール袋がある。就職の決まった次の日の買い物の帰りだ。


「・・・・・当のカカシさんは今どちらに?」
「任務中で里にはいないわよ。来週には帰って来るんじゃない?」


今日は確か水曜日なので少なく見積もってもあと3日間は会えないと言う事になる。そういえばメモにもそんなことが書いてあった。同じひとつの屋根の下にいつつ、自分は全く相手にされていないと、里に来てから何度目かのショック。


「まぁ、あんなやついない方が里も平和だしいいんじゃない?」
「そうなんですか?」
「ま、ねー。カカシは女遊び激しいからいつも抗争が絶えないのよ」
「ああ・・・・・なんとなく想像つきます」


家まで行くんだったら送るから話しながら行こうか、と言われたので好意に甘えては足を進める。紅は涼しげな様子でカカシの過去をペラペラと喋りだした。


「でさ、前なんか目の前でカカシの取り合いとかしてて。本当に一発蹴りでも入れてやろうかと思ったぐらい。結局引き分けで終わってその後は知らないけど、カカシはカカシで面白そうだし。今は今でちゃん軽々しくなんてかくまってるし?」
「それはカカシさんの所為じゃないと思うんですけど・・・・・」
ちゃんもカカシはやめときなさいねー、恋愛に関してはあんな男ろくでもないから」


今頃カカシは遠くでくしゃみでもしているのだろう。紅はカカシに対してぐさぐさと痛いところをつく。漫画では見れないカカシの一面だ。


「本当に何かあったら私のうちに家出してきてもいいからね?」
「ああ、はい。何かあったら」
ちゃんて何かストレス溜め込みそうなタイプって感じがするから皆心配してるのよ。周りが周りでなんとも言えないけどね」
「・・・・・・・カカシさんはいい人ですよ」


きょとん、と紅は目を丸くしてそれから思わずぷっと噴出して笑い出した。あはははは、とそれからしばらくして笑い続ける。


「ごめんごめん。そうよね、いい奴だとは思うわよ」
「どこら辺に爆笑ですか?」
「さらりと言っちゃうところ。一般人から見たら本当にカカシって狼かそこらの類だから。やっぱりこういう職業だと色々偏見あるしね。・・・・でもちゃんに言われたらカカシもちょっとは救われるかな?」


だと良いですけど、といった所でカカシの住むアパートの前に辿り付いた。そこで紅とはお別れをして、家にもどる。しんと静まり返った部屋は真っ暗で、電気をつけて買ってきたものを適当にあるべき場所に戻す。


「・・・・・寂しい、のかなぁ・・・・・」


もしかしたら自分は、カカシに恋心を抱いているのかもしれない。まだ少ししか接点が無く―――――相手にしてくれない彼なのだけれども。





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20080301
(紅さんの性格がイマイチわからないのでスルーの方向で。)