禁断





そろそろやばい。
長期任務なんて引き受けるんじゃなかった、と今更ながら後悔の念が胸中に渦巻く。野宿もこれで何日目か知らず、の手料理だって久しぶりになってしまう。これは何だ、拷問か。


「うーあー、きっつ・・・・」


言葉にしても埒が明かず、夜の闇に吸い込まれていくだけだった。という彼女を持ってからひと月。自分から初めて好きになったと言う事もあり、結構会う時間を取りたいとこまめに彼女のところへ顔を出してはいた。嫌な顔をするものの結局照れくさそうに迎えてくれるが好きだ。のめりこみすぎ、と紅やアンコやアスマ、その他そこら辺の野次馬同然のバカに指摘され、ツケが溜まっていた任務を引き受ける事になった。――――無理だった。1日2日ならまだしも、こんなに会っていないともなると、そろそろ限界だ。このまま帰りたくなってくる。きっと言ったら顔を赤くするだろう。触りたい。抱きしめたい。キスしたい。なんて。


「どうかしましたか?はたけ上忍」


班を組んでる忍にそう声を掛けられるまで、別世界だった。意識を引きずり戻し、焼きあがった魚をほお張る。味付けは塩。別に文句を言うつもりも無いが、どこか寂しい。の手料理だったら最低でもおかず3品ぐらいは並んでいたのに。こういうとき女の偉大さを思いしる。レパートリー多すぎ。


「なんでもないよ。ま、考え事かな?」
「珍しいですね、声掛けるまで気づかないなんて」


の声なら一番に気づく自信があるが、お前なんか別に、とこれはやや八つ当たり。日もとっぷり暮れてきて、帰るのも結構先になりそうな任務だ。早く帰ってくるからねと宣言しておいたのに、もうこの日数は早いうちには含まれない。こんなこと初めてだから、がっかりするのではないだろうか。それとも泣くだろうか。うわぁ泣いた顔見てみたい、なんてこれはちょっと幸せすぎる。


「そろそろ仮眠とったら?疲れてるでしょ」
「いえ、今日は自分が火の番する予定なので・・・・」
「じゃあ俺がしとくからいーよ」


ね、と言うと、彼もまたしぶしぶ眠りにつく。1人薪の前で魚を食べながら炎を見つめる。隣にがいてくれれれば、この炎だって綺麗に見えるのに今はそういうわけでもない。夜の癖に一向に眠気が無く、ぱっちりと自分の頭はフル回転だ。気づけば考えてるのはのことばかり。結構も夜行性で深夜まで起きていることがあるから、任務帰りでも寄れる。周りの家への配慮か、アパートにはほんの少し明かりが灯ってる。そんなときは彼女が起きている合図で、本を読んでいたり、仕事をしていたり就寝直前だったりと、タイミングはまばらだが、会えるだけでも良しとしておかなければその後歯止めが利かなくなるので夜は要注意だ。そういう時に、たまに淹れてくれるのコーヒーは格別だった。


「・・・・・・・・あーあ」


本当にあーあだ。あいつら今度会ったら締め上げる、と頭の中で数人候補をあげておく。あいつらの悪乗りには便乗するっつー精神もとことん後悔させてあげなければ。―――そしてこの長期任務も帰ったらきっと少しは甘い言葉でも聞けるかもしれない。カカシは微笑んで、焼き魚が差してあった棒をぽちゃん、と手前の川へ投げ捨てた。







今日も結局カカシは帰ってこなかった。
長期任務ってどれぐらいなんだろう、とカレンダーを見てみるが勿論国家機密並の秘密で、明かしてくれることはないから、ここは諦めておく。歯を磨いて、首にかけていたタオルで半分濡れたままの髪を拭いて洗濯機に放り込む。時計は刻一刻と過ぎていく。


「・・・・・・1時・・・・・」


それも深夜の。なんとなくカカシが今日帰ってくるような気がして、ここまで待ってみたものの、そろそろ寝ないと明日が持たない。ため息をひとつ付いて、潔く布団にもぐりこんだ。―――なんか、むしろこっちが飼い主を待ってるワンコみたいな。という疑問も上がって来る。本当は言えない。恥ずかしいから隠しておくだけの気持ちも、今はオープンに心の中を這い回る。今何処で何をしているんだろう。起きているのかな。寝てるのかな。戦闘してるのかも。怪我とかしてたらどうしよう。この前服に血が付いていたし。


「カカシさん・・・・・」
「・・・・・・呼んだ?」


予想外にも返事が返って来た。驚いてベッドから起き上がると、暗闇の中にカカシの姿を捕まえた。暗いが目は慣れてきたので、表情まで読み取れる。カカシは近付いてきて、ベッドの上に腰を下ろした。


「一応気づかないようにしていたつもりだけど」
「いえ、なんていうかその・・・・・」


カカシさんの事を考えていました、とは言えるはずも無く。


「こんな夜にごめんね。顔見れれば十分だと思ったから」
「別に寝てたわけじゃないですよ。起きてましたし」
「なら良かった。久しぶり、
「おかえりなさい、カカシさん」


ただいま、とカカシは小声で言って微笑む。怪我もしてないようだし、良かったとは胸をなでおろす。ほっと一息ついたところで、カカシは立ち上がる。


「こんな夜に押しかけてごめんね」
「え?もう行くんですか?」
、眠いでしょ。それにこんな夜中だし」
「そう、ですか」


名残惜しげに言うと、カカシが頬に不意打ちでキスを落とす。


「今日は素直に帰ろうって決心したんだから、あんまりそういう態度取ると揺らぐよ?」
「いえ・・・・そういうわけでなく・・・・」


悪戯っぽくカカシは笑って一言お休み、と付け加える。カカシも今日はこれで満足だった。明日はフリー。また、会いにこよう。


おやすみなさい。また明日。









20080319
(離れたらかなり心境がぐらぐらしそうですね、カカシさんは)