秒読み





「・・・・ええ、・・・・・ええと、さん?」


呼びかけてみるが、むすっとしたその表情は直らない。自分が元凶だということはわかっているつもりで謝り倒そうとしたが、はその謝罪を耳にすら入れてくれない。むしろ不機嫌度が増して今ではどんどんと旅行の準備宜しく荷物をまとめている。―――当のカカシは触れることもままならずに隣で覗いたり後ろをついて行ったりする有様だ。


「えっ、ちょっと待って!」


自分の家から彼女の私物がなくなり終わった時、は立ち上がって玄関に向かう。ギリギリのところで、の正面に止めに入ったカカシは俯くに恐る恐る問いかける。


「・・・・・さん、ごめんて。もしかしてこのまま出て行くつもり?」
「・・・・・・おせわに・・・・・」
「は?」


の声が小さすぎて聞き返すと、は顔をあげてカカシを真っ向から睨みつけ、不機嫌全開で言い放った。


「短い間でしたがお世話になりましたっ!さようなら!!」


その後、四の五の言わせずに彼女は出て行ってしまった。







「あはははははは!傑作ーっ」


と、笑い飛ばしたのは酒も良い感じに入った紅だった。その場にはアスマとアンコとカカシがいて、笑われた本人を除いては、全員笑いを堪えたり堪えなかったりだ。しかしカカシは全然面白くなく、むしろ落ち込んでいるような怒っているような複雑な顔をしていた。その為、カカシの目の前にある今日の酒はいつものよりきついのを頼んでいる。


「こりゃ、別れるのも秒読みだな」
「てかもう別れたも同然じゃない?」
「今度に早く決別宣言するように行っておくわ。・・・くくっ」


アスマ、アンコ、紅と容赦ない追撃をされてカカシは更に仏頂面だった。紅に至っては、その話を切り出した瞬間から笑い通しである。


「あのね!俺たちはまだ別れてないし、別れる気もさらさら無いの。ただ出て行ったってだけだし、全面的に俺が悪いからちゃんと謝るし、そういう憶測はしないでくれる?」
「事実でしょうよ?ああ・・・・これでも真っ当な人生が送れる道にちゃんと乗り出したってところよね」
「人を勝手に人外みたいな存在に蹴るな紅」


と一番仲のいい紅は日ごろから別れた方がいいんじゃない?とお遊び半分で茶々を入れてくるが、その彼女の願望も実現に近くなってきた。次に仲のいいアンコもそちらの賛同側で、アスマも傾きつつある。傍から見れば、3対1と絶対的に不利な状況だ。


「で、どうしてそんなことになったんだ?」
「カカシの浮気」
「結果としてはそうなるけど、完結に言っちゃうともともこーもないでしょーよアンコ。それに至っては重要な経緯があるし、第一、浮気じゃないし」
「どっちなのよ?」
「浮気じゃない」
「・・・・・自首した方がすっきりするわよ」


面白交じりに容赦ない止めを刺した紅は、酒を次々と開けていく。アスマも似たり寄ったりだが、アンコは先程から甘いものばかり頼んでいる。こいつらと一緒に居たら見てるだけでも胃がどうにかなっちゃいそうだな―――とカカシは思うが内心で留めておく。


「詳しく説明すると、浮気現場(未遂)をたまたま通りかかったに見られ、んで、は怒って荷物まとめて今は友達の家だそうよ。そのお陰でカカシの家にはの物は一切ナシ。が、今日のお昼頃。何か間違ってる?カカシ」
「間違ってるって言うか、核心部分が抜けてるでしょーよ。任務なの任務。里の中で。それであっちが言い寄ってきたから適当にあしらおうとして・・・・」
「あしらおうとするのは良いでしょうけど、キス寸前まで行くかなぁ?フツー」
「・・・・アンコならどうするってわけ?」
「見つかるなんてバカなことしない」


正論。しかし、気を抜いていたとはいえ見られてしまったのは見られてしまった事だ。まさかあんな真夜中にが外出していたなんて思いも寄らなかったし、通りすがりの人なら避けてくれるかと思っていた。そこを躊躇せずえぐってくれる友人を持って自分は本当に大変だ。


「まぁ、こういう時は謝るしかないだろうな」
「許してくれないに1票」
「追加で2票目」


アスマの真っ当な考え方に便乗してアンコと紅が反対派を表明。


「・・・・・れ?どこいくのよ、カカシ」
「家。お前らに話したってどうにもならないってことがよくわかった」
「そりゃどうも。精々別れる事に期待してるからそこら辺にも宜しくねー」
「アンコ、そんな図星言っちゃあカカシが可愛そうでしょ」
「あははごめんごめん」


最後の最後までぶすぶす刺さる言葉のナイフだったが、視線をやってもアスマは助けてはくれなかった。






20080308
(カカシさんサイド。続きます)