ミルクのお誘い いわゆる不眠症というやつである。 夜に中々寝付けない、ということはたまにあったがここまで眠れなくなるのも流石に初めてだった。 とりあえず眠くなるように羊を数えるとか、難しい計算式を脳内で解くとか努力はしてみたがその効果もあってないようなものだ。 「・・・・・どうかしたー?」 驚いて隣を見るとカカシが横で眠る体制に入っていた。 ちょっとまって何時の間に。しかも人のベッドに不法侵入。 は流石にこれはいてもたってもいられず、ヒステリック宜しくカカシを叱る。 「何でカカシさんがここにいるんですか!出てってくださいっ!」 「たまたまの家にきたらが寝ていて、の隣が空いていたから寝ました。オッケー?」 全然オッケーどころではない。カカシは嬉しそうに笑ってを見上げる。 「で、どうしたの?寝ないの?全然眠ってなかったね」 「何でそんなのがわかるんですか・・・・・」 「長年の勘と・・・・愛?」 「出て行きなさい」 一拍もおかずにがそう答えると、やっぱり返事は嫌だよ。だった。 それよりもどうして寝付けないのか気になるカカシは、自分も上体を起こして壁に背を預ける。 「・・・・・・・まぁ、なんていうか、中々眠れないだけです」 「そういう体質なの?」 「たまに、ですよ?・・・・・こんなに眠れないのは久しぶり、疲れてるのに」 「そっかー」 カカシは納得したように頷いてベッドを降りるとキッチンにある冷蔵庫の扉を開けた。なにやらマグカップに飲み物を注いで暖めている様子だった。それから直ぐにお待たせ、といってにそのカップを渡す。中身はミルクだった。 「・・・・・なんで牛乳?」 「寝付きやすくなれる、とかなんとか聞いたことあるから」 「へぇ、そうなんですか」 「あったかいものは体に良いからねー」 隣にカカシが腰を下ろす。の手の中にあるミルクは美味しそうに湯気が出ていた。おずおずとミルクを飲む。 「美味しーい?」 「はい。・・・・てか普通の牛乳ですけど」 「愛が大切なんだよ、愛が」 さいですか、と適当に返事をしておいた。確かにミルクは芯から体を温めてくれるような気もしないでもない。カカシも任務で疲れてるくせに、自分に夜中まで気遣ってくれる親切がは嬉しかった。 「ま、寝付けないならちょっと話をしようか」 「いいですけど」 「最近長期の任務が増えてて会えなくてごめんーね?」 「え?や、まぁそれは別に構いませんが・・・・・」 酷い、俺はすっごく気にしていたのに、とまるで自分が悪者みたいに扱われてしまった。それでも半ば冗談交じりにカカシは続ける。 「もう本当にめんどくさい。1番といるときが1番落ち着く」 1番を2回も繰り返したよ、今。 「そんなこと言っていいんですか、上忍なのに」 「関係ないし、言うのはタダじゃない?別にさえ黙ってくれれば問題ないし、ね?」 「何が『ね?』ですか・・・・・」 「少しぐらい愚痴らせて?あ、の相談事ならなんでも聞くよ?」 「いえ・・・・特にありませんが?」 「つれない・・・・」 カカシは落ち込むが、直ぐに微笑み返してくる。ここらへんの立ち直りの早さは遺伝なのだろうか。眠る時は流石に額あてはしていないので綺麗な赤色の写輪眼が見えた。 「・・・・・・その・・・・・」 「え?」 「その写輪眼、綺麗ですね」 「ありがとう。てか、友達からの貰い物なんだけどね?」 嬉しいよ、とカカシはもう一度微笑んだが、こっちの方が切ないような気がした。貰い物、ということは、それをくれた人はもういないということなのだろうか。はわざと話題をそらす。 「そういえば、昨日紅さんに会ったんですよ」 「・・・・・・なんで話そらすの?」 「え?」 「・・・・・俺、傷ついたような顔した?」 「いえ・・・・・」 それでも触れてはいけないような気がしたから、とは流石にも言えなくて俯く。 「別にね、になら傷をえぐられたって俺はいいんだけど」 「・・・・・傷」 「むしろ知って欲しいと思うけど、滅多に聞いてくれないし?」 「・・・・その話をすると、カカシさん落ち込むから」 「うーん、それも事実なんだけどねー?でも別に嫌じゃないよ」 やっぱり知って欲しいし、とカカシは付け足す。 「なんてね。・・・・・もう寝る?それも飲み終わったことだし」 「え?・・・・あ、ありがとう御座いました」 「いえいえ、どう致しましてー。お安い御用」 いつの間にかの手に持っていたミルクもなくなり、それに気づいたカカシはひょいとのそれを持って片付ける。も自分では行くと行ったのだが布団に入ってて、とのこと。 これから目を瞑っても、怖くないような気がした。 「おやすみ、」 「おやすみなさい」 20080227 (牛乳はいつでも冷蔵庫に完備です) |